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福岡高等裁判所 昭和53年(ネ)535号 判決

控訴人(附帯被控訴人)

社会福祉法人あさひ事業協会

右代表者代表理事

下原萬亀雄

右訴訟代理人弁護士

吉原英之

被控訴人(附帯控訴人)

三宅ときわ

右訴訟代理人弁護士

安部千春

神本博志

右当事者間の雇用関係存在確認等請求控訴、同附帯控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  附帯控訴に基づき原判決主文第二項を次のとおり変更する。

三  控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し、金五八四万七五一八円及び昭和五四年五月以降毎月二五日限り月額金一二万三一五〇円を支払え。

四  当審における訴訟費用はすべて控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。

五  この判決の第三項は仮に執行することができる。

事実

一  控訴人(附帯被控訴人、以下単に「控訴人」という。)は「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人(附帯控訴人、以下単に「被控訴人」という。)の請求を棄却する。本件附帯控訴に基き当審で拡張された請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。

二  当事者の主張及び証拠の関係は、次に付加するほか原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する(ただし、原判決四枚目裏末行の「市立東蜷田市民館」から「東」を削除する。)。

(被控訴人の附帯控訴による請求拡張についての主張)

1  被控訴人の給与は北九州市の行政職の俸給表によって支払われることになっている。被控訴人の本件解雇時における給与は右俸給表の8等級10号俸であった。北九州市の行政職は毎年四月に一号俸ずつ定期昇給するので、昭和五一年四月には8等級11号俸に、同五二年四月には8等級12号俸に、同五三年四月には8等級13号俸に、同五四年四月には8等級14号俸に、順次昇給したはずである。そして、これによると、昭和五一年四月から同五四年四月までの本俸は別表(略)(一)の本俸欄記載のとおりである。

2  なお、本俸のほかに給与改善手当として本俸の六パーセントに相当する金額が、特殊業務手当ととして本俸と右給与改善手当の合算額の四パーセントに相当する金額が、更に調整手当として本俸と右給与改善手当、特殊業務手当の合算額の六パーセントに相当する金額が、それぞれ支給されるが、その金額は別表(一)の当該欄記載のとおりである。

3  また、賞与として毎年右本俸と諸手当の合算額の四・九か月分の支給を受けることになっているが、昭和五一年度から同五三年度までの計算は別表(二)に記載のとおりである。

4  そこで、被控訴人は控訴人に対し、昭和五一年四月から同五四年四月までに支給を受くべき本俸・諸手当・賞与の合計額金五八四万七五一八円及び昭和五四年五月以降毎年二五日限り月額金一二万三一五〇円の給与(本俸・諸手当)の支払を求める。

(右主張に対する控訴人の認否)

被控訴人が正常に勤務した場合、右主張のとおりの給与、諸手当及び賞与の支給を受けることは認める。

(控訴人の当審における付加陳述)

1 期間の定めのない労働契約においては、使用者は民法六二七条一項により解雇の自由を有するものであり、その解雇権の行使については、労働基準法一九条・二〇条の制限に服するほかは、私権の行使一般に通ずる原理である権利濫用の理論によって、例外的に無効とされるにすぎない。したがって、いかなる場合に解雇権の行使が権利の濫用となるかを判断するについても、本来解雇権の行使は自由であるとの原則のもとになされねばならない。

2 本件の場合、控訴人は就業規則一四条五号の規定に基き、保母二名を解雇することとなったのであるが、右二名を選定するに際しては、あさひ保育園の設立趣意にそわない職員及び勤務状態の良くない職員を基準として決定することとなった結果、被控訴人ほか一名が指名されたものである。右のような行為は、当然使用者たる控訴人の裁量の範囲内であって、被解雇者に対する説得等の手続は、不要というべきである。

(証拠の関係)…略

理由

一  当裁判所も、控訴人の被控訴人に対する本件解雇は解雇権の濫用であって無効と判断するが、その理由は次に付加訂正するほか、原判決の理由一ないし三(原判決九枚目表一二行目から同一五枚目表七行目まで)に説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一一枚目表五行目、その裏一行目、一一行目及び末行並びに同一三枚目表一一〇行目の各「東蜷田市民館保育所」ないし「東蜷田保育所」からいずれも「東」を削除し、同じく一一枚目表九行目の「証人上原政次郎の証言」を「原審及び当審証人下原政次郎の各証言」と改め、同一二枚目表末行の「証人下原政次郎の証言」の前に「前記」と挿入する。

2  同一三枚目表一一行目の「保育園が少なく、」の前に「近くに」と挿入する。

3  同一三枚目裏一二行目の「証人下原政次郎」から同じく末行の「によれば、」までの部分を「原審及び当審証人下原政次郎の各証言、原審及び当審における被控訴人、原審(第一回)における控訴人代表者各本人尋問の結果によれば、」と改め、同一四枚目表二行目の「決議されたと同時に、」とあるのを「決議されると同時に、右減員の方法について、希望退職者の募集その他の方法が特に協議されることもなく、指名解雇の方法を採ることを決定し、」と改め、また、同一四枚目表九行目の「ほぼ一年内」から同じく一〇行目の「二名の保母を」までの部分を「ほぼ一年三か月以内に死亡退職者一名を含め四名の保母の退職者があっており、昭和五二年四月から六月にかけてその補充のため新たに四名の保母を」と改める。

4  同一四枚目裏一行目冒頭から同じく八行目の「と解され、」までの部分を「しかして、昭和五一年三月に保母二名の人員整理を決定した段階で、右のような退職者の出現が予測できたか否かはともかく、現にこのような退職者をみているのであり、もし控訴人においてその従業員に対し、右人員削減のやむをえない事情などを明らかにして協力を求め、場合によっては何らかの有利な退職条件を付するなどして、退職の希望を募っていたならば、あるいはこれに応ずる保母が存在した可能性がないではなく、また、結果的にこれに応ずる者がないことになったとしても、解雇が従業員の生活にもたらす重大な結果に思いを致すならば、使用者としても信義則上一応その程度の措置は尽すべきであったと解される。」と改め、同一四枚目裏末行に続けて「なお、(人証略)の証言には、控訴人が昭和五一年三月五日被控訴人らの解雇を決定しながら、同月二五日に解雇の通告をするまで事前に何らの予告も説明もしなかった点について、事前通告が保育園内に混乱と動揺をもたらし、当時卒園期を控えた園児に悪影響を及ぼすことを恐れたためであるとする部分がある。しかし、その点多少の影響は推認できるにしても、他に特段の証拠もなく、本件指名解雇を容認させるほどのものであったとは認めがたい。」と付加する。

二  してみると、控訴人の被控訴人に対する本件解雇は無効であり、被控訴人の本訴請求中、控訴人に対し労働契約上の地位の確認を求める部分は、まず正当として認容すべきものである。

三  次に、被控訴人が控訴人の従業員として本件解雇当時、北九州市の行政職俸給表の8等級10号俸に相当する給与を、毎月二五日に支給を受けており、もし本件解雇がなく正常に勤務しておれば、被控訴人が附帯控訴による請求拡張についての主張として述べる経緯によって、毎年一回本俸の定期昇給を見、また、これとともに右主張に掲げられている諸手当及び賞与として、その主張どおりの金額の支給を受けるはずであったことは、当事者間に争いがない。

そして、右事実によれば、控訴人は被控訴人に対し、昭和五一年四月から同五四年四月までの右本俸、諸手当、賞与の合計額として金五八四万七五一八円及び昭和五四年五月以降の給与(本俸、諸手当)として毎月二五日限り月額金一二万三一五〇円を支払う義務がある。控訴人は、被控訴人が現にその業務に服していないのであるから、仮に太件解雇が無効であっても、控訴人に請求しうる給与額はその六〇パーセントである旨主張するが、被控訴人が控訴人の責に帰すべき事由により就労できない状況にある本件の場合、控訴人の右主張が採用できないことは明らかである。

四  してみると、被控訴人の本訴請求中、附帯控訴により当審で請求を拡張した分を含め、控訴人に対し前記金員の支払を求めた部分も、正当としてこれを認容すべきものである。

五  以上の次第で、原判決は相当であるから控訴人の本件控訴を棄却し、被控訴人の附帯控訴に基づき、原判決主文第二項を本判決主文第三項のように変更し、なお訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 矢頭直哉 裁判官 権藤義臣 裁判官 大城光代)

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